コラム
革製品メーカー視点で『エルメス』を語ります。
―― エルメスはなぜあれほど高いのか、革はどこから来るのか、トゴとは何なのか
言わずもがな、高級ブランドの中でもHermès(エルメス)は特別な地位を築いています。
特にバーキンやケリーは、単なる高級バッグという枠を超え、「資産」として扱われることすらあります。
しかし、その一方で、
「なぜあんなに高いのか」
「本当に品質が特別なのか」
「革はどこから来ているのか」
「トゴやエプソンとは何なのか」
といった点については、ネット上に憶測や誤情報も非常に多いです。
そこで今回は、公開情報・業界情報・確認可能な事実ベースのみを使い、エルメスをできるだけ冷静に深堀してみたいと思います。
■ エルメスはなぜ高いのか
まず結論から言えば、
「高品質な少量生産品に対して、世界規模の巨大需要が存在し、さらにブランドが極めて強い価格決定力を持っているため…」
これが最も事実に近い理由かと思います。
エルメスは主要レザー製品の多くをフランス国内工房で製造しており、大量生産ブランドとは生産構造が異なります。
特にバーキンやケリーは、職人が長時間かけて製作する体制が維持されており
また、同社は毎年のようにフランス国内工房を増設しているが、それでも需要に供給が追いついていない。
つまり、
「意図的に数を絞っている」
というより、
「需要がすさまじい」という側面が実際にはかなり大きい。
さらに、
・高級原皮と贅沢な裁断
・高品質ななめし
・手作業工程
・フランスの高人件費
・厳格な品質基準
なども価格を押し上げている。
ただし、それだけでは現在の価格水準は説明できず、
実際には、
「ブランド価値」
「希少性」
「中古市場での価格維持」
「世界的需要」
が巨大なプレミアムを形成している。
つまりエルメス価格は、
“原価”だけで決まっているわけではなく、
売っていない、買えないという現象。
供給数をはるかに上回る需要がずーっと続いていることが根底的な理由にもなっているわけですね。
また、これほどの革製品はエルメス以外ではないとも思います。
■ エルメスは世界一高額な革製品ブランドなのか
「現行で一般市場に継続流通している革製品ブランド」という条件なら、
エルメスは間違いなく世界最高峰価格帯に属します。
特にバーキン、ケリーのクロコダイル仕様は、数千万〜場合によっては億単位に達する。
しかも重要なのは、
“実際に市場需要が成立している”
という点です。
単なる希望小売価格ではなく、二次流通市場でも高値が維持されています。
■ エルメスのクロコダイル革はどういう革なのか
エルメスは主に、
・ポロサスクロコダイル
・ナイルクロコダイル
・アリゲーター
などを使用しています。
これらは基本的に、CITES(ワシントン条約)管理下の認可養殖由来である。
現在のラグジュアリー産業において、トップブランドが野生乱獲品を大量使用しているという理解は正確ではなく、
実際、エルメスは養殖場やタンナーへの投資・買収を進めており、供給網をかなり深く垂直統合している。
その中心の一つが、HCP(Hermès Cuirs Précieux)である。
■ HCPとは何か
HCPは、エルメス系の高級エキゾチックレザー加工ネットワークであり、
・原皮選別
・なめし
・染色
・加工
などを担っています。
つまり単なる取引先というより、
“エルメスの高級クロコ品質を支える中核インフラ”
に近い存在です。
なお、HCP系統の革は、必ずしもエルメス専用とは限らず、他の高級メゾンへ供給されることもあります。
■ トゴ、トリヨン クレマンス、ヴォー エプソンとは何なのか
ここは非常に誤解が多い点。
まず重要なのは、
「トゴ」
「トリヨン クレマンス」
「ヴォー エプソン」
は、基本的にエルメス側の素材名称であり、世界共通の革規格名ではないという点。
つまり、
“牛革業界全体の正式分類”
ではない。
たとえばトゴは、
・シュリンク系
・自然シボ
・柔らかさとコシ
を持つカーフ系レザーとして知られています。
トリヨン クレマンスはより柔らかく、シボが大きい。
ヴォー エプソンは、型押しによる均一グレインと高い傷耐性が特徴。
しかし、
「トゴ」という革がタンナー側で世界共通規格として存在するわけではなく、
あくまでエルメス側の商業名称に近い。
■ エルメスの代表的な革『トゴ』のタンナーはどこなのか
ここは非常にセンシティブな領域で、
業界では、
・Tanneries du Puy (デュプイ)
・Tannerie d’Annonay (アノネイ)
などの名前がよく挙がります。
実際、エルメスはこれらフランス名門タンナーに出資しており、歴史的供給関係も確認されています。
ただし、調べると
「トゴ=○○タンナーの革」
といった形で公式確認された事実は存在しません。
つまり、
“特定・断定はできず、複数社に依頼している可能性もある” ということになりますね。
また、ロットや時代によって供給元が変わる可能性もあります。
■ Weinheimer Leder(ワインハイマー)との関係
ドイツの名門タンナー Weinheimer Leder(ワインハイマー) の革が、エルメス革に酷似しているという話は、革業界ではかなり有名である。
特に、
・Espoir(エスポアール)
・Waprolux(ワープロラックス)
は、それぞれ
・トゴ
・ヴォー エプソン
に非常に近いと評価されることが多く、
実際、質感や用途設計はかなり似ています。
しかし重要なのは、
“似ている”ことと、“同じ革”であることは別という点。
現時点で、
「エルメスが Weinheimer 製革を採用している」
という公開証拠は確認されていないので、
「完全同一素材」
と断定することはできない。
ただし、革マニアやオーダー業界では、
「トゴ系」
「エプソン系」
として比較対象になることは非常に多いです。
■ 他社が「トゴ」「トリヨン クレマンス」「ヴォー エプソン」と表記するのは問題か
日本のECサイトでは、
「素材:トゴ」
「クレマンス使用」
などと書かれていることがありますが、厳密にはグレーな表記と言えるでしょう。
なぜなら、
「トゴ」
「ヴォー エプソン」
などは先述の通り
本来エルメス由来の素材名称に近く、一般革規格名とは言い切れないからです。
したがって、
「エルメスと同一素材」
と誤認させるような表示であれば問題化する余地がある。
一方で現実には、
「トゴ風」
「エプソン系」
「シュリンクレザー」
といった質感分類的な俗称として、半ば一般化している面もある。
つまり現在の市場では、
“厳密法理”と“業界慣習”
が混在している状態とも言えます。
以上、
今回は革製品のメーカー視点でエルメスと素材についてのコラムでした。
